「パーパス」は採用に効くのか?ーデータで読み解く、人材、ESGとの新しい関係

WorldRoadコラムは、各メンバーがグローバル・ローカル、様々なプロジェクトをする中で閃いたトピックを深掘りし、調査や公開情報、データ、事例などをまとめています

給与明細だけで人は動かない時代

優秀な人材を獲得するには、給与だけでは不十分、企業には「パーパス」が必要だーーそう語られるようになったのは、体感、2010年代後半頃でしょうか。

それまで主流で、多かったのは、利益の最大化や株主重視を軸にした経営。しかし、次第に、「何のために会社が存在するのか」という根源的な問いに向き合い、社会に対してどのような価値を生み出せるのかを示すことが求められるようになりました。

経営の視点は、株主中心からステークホルダー全体へと広がり、多くの企業がパーパスを掲げるようになりました。 

こうした潮流のなかで、「優秀な人材を獲得するためには、明確なパーパスが不可欠だ」という認識が強まっていきました。

2026年現在も、人材獲得競争は一段と激しさを増しています。 採用市場は売り手優位が続き、企業はこれまで以上に「選ばれる理由」を問われるようになりました。

その一方で、こんな疑問も浮かびます。

本当に優秀な若手人材は、給与よりも社会的意義を重視しているのでしょうか。

「パーパス」は人材獲得にどこまで影響しているのでしょうか。理念への共感は、実際のキャリア選択にどれほどの重みをもっているのでしょうか。

本記事では、各種データをもとに、現在の状況を冷静に読み解いていきます。

データで見る若年層の価値観(2025-2026最新動向)

「パーパス」は必須条件か、十分条件か?

Deloitteが公表した「ミレニアル世代とZ世代に関する調査2025(2025 Gen Z and Millennial Survey )(※1)」によると、若年層にとって、生活費の高騰は最大の懸念事項の一つであり、経済的な不安が強まっています。

同調査では、Z世代とミレニアル世代の約半数が経済的に安定していないと回答しています。

さらにレポートでは、経済的に安定していない層は、仕事を有意義だと感じにくい傾向があることが示されています。顕著な例として、給与満足度と社会貢献感には相関が見られます。

満足している層:

給与に満足しているZ世代の63%、ミレニアル世代の69%が「自分の仕事は社会に貢献している」と感じています。

不満がある層:

一方、給与に不満を持っている層では、その割合がZ世代で43%、ミレニアル世代で44%にまで低下します。

つまり、給与や経済的安定は、「あると嬉しい」ものではなく、土台であり、「必須要因(ないと不満)」に近いものです。

一方、パーパスはどうでしょうか。

ほぼ9割が、仕事にパーパスがあることが満足感や幸福感に重要だと回答しています。

Z世代    89%が「仕事に目的意識は重要」と回答

ミレニアル世代 92%が「仕事に目的意識は重要」と回答

こうした目的意識が会社の掲げるパーパスと一致することで、モチベーションやエンゲージメントを高める「動機づけ要因(あると自分ごと化する/定着する)」だと回答する人が多くなっています。

さらに、仕事に意義を感じられないことを理由に離職した経験がある人は、4割を超える結果となっています。 

これは、

経済的な安定があるからこそ、意味を求めることができる

意味があるからこそ、組織にコミットできる

という、連関した構造があることを示唆しています。

また、この世代の目は厳しいものがあります。全体の80%が「企業はもっとサステナブルな行動を起こすべきだ」と回答し、価値観や倫理観が合わないと判断すれば、約40%が実際に業務や入社を拒否した経験を持ちます。パーパスと実態の乖離に対してこの世代が敏感であることが読み取れます。

立派なパーパスを掲げていても、実際の事業内容や社内の制度、取り組みが伴わなければ、裏切られたと感じてしまい、働く意欲を大きく下げてしまう可能性があることが指摘されています。

以下はその一つの指標として、ESGを見ていきます。

働く人々は「未来」を見ている?

最新のグローバル調査では、若年層が企業を選ぶ際に、環境や社会への取り組みや、価値観の一致を重視する傾向があることが示されています。

同じ調査で、約7割が企業の環境に関する資格や方針を重視すると回答しています。

また若年層に限らず、PwCの調査(※2)では、会社のESG方針や社会的影響を重視する姿勢が、採用や人材の定着に一定程度影響を与えると示されています。

給与や福利厚生といった待遇の次に、その会社に留まるか、魅力を感じるかの要因になっているという結果となっています。

また上級管理職の40%以上が、転職の際にESGを重視すると回答しており、一般社員以上に高い割合で、ESGをキャリア選択の要因にしていることもわかってきています。(※3)

もはや短期的な利益を追求する企業は、事業モデルに無理がある、コンプライアンスやレピュテーションリスクの面で危険度が高いと判断されるようになっています。

ESGを重視する企業は「安定志向」という旧来のイメージを超え、いまや長期的な成長戦略を持つ企業として評価されるようになっています。

日本市場の状況

では、日本の状況はどうでしょうか? 

日本では、欧米に比べて、こうしたESGに対する意識の変化は緩やかで、「安定志向」は依然として強い傾向にあります。 マイナビの新卒採用における調査によると、依然として若年層は雇用の安定性や給与を重視しており、この傾向は以前よりも強まっているようです。 (※4)

しかし、日本国内の調査(※5)でも、社会貢献活動をする企業を就職・転職先として考える人が6割を超えると報告されています。また、単に働きやすさや給与だけでなく、「働くことを通じた成長」や「働きがい」を重視する傾向も確認されています。(※6)

これらの結果は、仕事の意味や価値を重視する意識の高まりを裏付けています。

また、リクルートの調査(※7)によると、GX関連求人数は2016〜2022年の6年間で約6倍に増加した一方、実際の転職者数は約3倍にとどまっており、人材の需給ギャップが生じています。こうした市場の拡大を背景に、ESGやサステナビリティに特化した転職エージェントのサービスが相次いで整備・拡充されており、専門人材へのニーズの高まりがうかがえます。

なぜESGが採用の武器になるのか?

近年、企業のESGやサステナビリティへの取り組みが、採用や定着に影響を与える可能性があることが、複数のグローバル調査でわかってきています。

例えば、Economist Impactの調査(※3)では、上級管理職の4割が求人応募時にESGを重視すると回答しています。また、ESGを重視する企業であれば報酬条件の優先度を下げるとする回答も一定数存在することが報告されています。

また、これまでみてきたようにDeloitteの調査(※1)でも、給与だけではなく、仕事に目的意識や価値観との一致を求める傾向が強いことが示されています。 

これらの結果は、給与が一定の水準を満たしている場合に、企業の社会的姿勢やESGへの取組の姿勢が差別化要因になることを示しています。

LinkedInが発表した「LinkedIn Green Skills Report」(※8)によると、グリーン・スキルを持つ人材の雇用成長率は高く、需要が供給を上回っている状況となっています。 グリーン・スキルを持つ人材は依然として希少であり、採用競争が高まっているのが現状です。

長期的なビジョンを掲げて、ESGに取り組む企業でなければ、こうした人材を獲得することは年々難しくなっていくことが予測されます。

事例をいくつかご紹介しましょう。

Novo Nordisk (デンマーク/製薬)

まずは、世界トップクラスの製薬会社である「ノボノルディスク」。 

「慢性疾患を克服する(Driving change to defeat serious chronic diseases)」というパーパスを掲げる企業です。 事業戦略とサステナビリティ方針を一体化させた経営を続けており、欧州では雇用主ブランド評価が高い企業としても知られています。

https://www.novonordisk.co.jp

Tony’s Chocolonely (オランダ/食品)

オランダの「トニーズ・チョコロンリー」は、「チョコレート産業を100%奴隷労働フリーにする(100% slave-free chocolate)」を掲げるチョコレートブランドです。 

ポップなパッケージと、カカオのサプライチェーンにおける児童労働や奴隷労働に正面から取り組んでいます。社会課題に対して透明性を持って向き合うブランドとして、若年層を中心に支持を集め、ミッションに共感する人材を惹きつける存在となっています。

https://jp.tonyschocolonely.com

Back Market (フランス/リファービッシュ)

日本でも事業を展開するフランスのユニコーン企業「バックマーケット」は、「新品を買うのはダサい」という価値観を広めようと、スマートフォンなどの電子機器の中古品マーケットを運営しています。 毎年、必要もないのに買い替える。そんな「ファストテックに終止符を」というパーパスのもと、循環型経済を牽引する姿勢がエンジニアにも支持されています。 

https://www.backmarket.co.jp/ja-jp

人事戦略としてのサステナビリティ

これまで一部の意識の高い層の関心事と捉えられがちだった「パーパス」や「ESG」は、近年、採用や人材の定着に影響する要素として、徐々にその重要性を高めつつあります。

 ESGはもはや単なる「コスト」ではなく、企業の長期的な持続可能性と、個人のキャリア形成を結びつける枠組みの一つになりつつあるといえるでしょう。

企業にはパーパスを掲げるだけでなく、それを日々の業務や評価制度にまで落とし込み、「自分の仕事が社会や未来とどうつながっているのか」を社員が実感できる仕組みづくりが求められています。

価値観の一致や社会的意義を重視する層にとって、こうした企業の姿勢は会社を選ぶ重要な判断材料となるでしょう。「自分の仕事が未来につながっている」という納得感を提示できるかどうかが、これからの人材競争と企業の持続的成長を左右する鍵になるはずです。


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World Roadは、パーパス・サステナビリティ、大きくは組織カルチャーを「自分ごと化」する研修や発信戦略を提供しています。

World Road
教育/研修プログラム  https://www.worldroad.org/training
発信戦略 https://www.worldroad.org/culturebranding 


<出典>

※1 Deloitte, 2025 Gen Z and Millennial Survey,  2026年2月25日参照

https://www.deloitte.com/global/en/issues/work/genz-millennial-survey.html

※2 PwC, PwC’s Global Workforce ESG Study 2024,  2026年2月25日参照

​​https://www.pwc.com/gx/en/issues/workforce/pwcs-global-workforce-sustainability-study.html

※3 ESG today, 「Over 40% of Senior Executives Prioritizing ESG in Career Decisions: Survey」, 2026年2月25日参照

https://www.esgtoday.com/over-40-of-senior-executives-prioritizing-esg-in-job-choice-decisions-survey/

※4 マイナビ, 「2025年卒大学生就職意識調査」, 2026年2月25日参照

https://career-research.mynavi.jp/reserch/20240416_74092/

※5 国際NGOプラン・インターナショナル, 「Z世代はどう見ている?最新調査から見えてくる企業のSDGs・社会貢献活動の形」, 2026年2月25日参照

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000283.000012939.html

※6 パーソル総合研究所, 「働く10,000人の就業・成長定点調査」, 2026年2月25日参照

https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/spe/pgstop/pgs/about

※7 リクルート, 「GX(グリーントランスフォーメーション)求人は6年で5.87倍に増加の一方、転職者は3.09倍にとどまる グリーン戦略に取り組む人材の育成・確保に課題」, 2026年3月3日参照

https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2023/0830_12586.html

※8 Linkedin, Global Green Skills Report 2024, 2026年2月25日参照

https://economicgraph.linkedin.com/content/dam/me/economicgraph/en-us/PDF/Global-Green-Skills-Report-2024.pdf

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