みなさんはマラソンを走ったことがありますか? うまくペース配分を して、着実にゴールまで走らなくてはなりません。スタートから猛ダッ シュ、一気にゴールへ駆け込む短距離走とはまるで違います。もし私がみ なさんに、両方を同時に走らないといけないと言ったら、どうしますか? しかも、このレースにはずっとゴールがないとしたら? おかしなことを言っていると思うかもしれませんね。だけど、考えてみてください。だっ て、これはまさに私たち人類がやっていること。私たちは永遠の発展とい う夢のなかを生きています。手に入れられるものは全部かき集め、存在し ないゴールを目指してダッシュする一瞬一瞬に、他者を追い抜こうとして
いるのです。 子どもの頃、両親に連れられて故郷チェコの美しい森に行きました。春がその生まれたての緑の指で、自然を目覚めさせていました……と、そ こへ鋭い刃が入ったのです。地面に巨大な傷があり、まるで地表が苦痛に顔を歪めているようでした。それは炭鉱でした。 人類が自分たちの夢を強化するために素知らぬ顔で他者を犠牲にするやり方は、幼かった私にはまるで訳が分かりませんでした。私たちには電力 が必要なのです。料理をするために。本を読むために。遠くに住む大好き な人たちと話すために。でも石炭に代わる燃料はないのでしょうか? 私 たちの夢にエネルギーを供給でき、汚染を残さないものは。地表に傷を 残さず、健康への害を引き起こさないものは。毎年、大気汚染で世界中 の 4 0 0 万人以上の命が奪われています。だからこそ、2 1 世紀を生きる私 たちの未来にふさわしい、希望に満ちた物語が必要なのです。人種も性 別も収入も関係なく、みんなで分かち合い、つくり上げる人類の物語が。
サステナビリティ分野のコミュニケーション専門家として働く私の使 命は、再生可能エネルギー資源を使う人たちを見いだすこと。人々に希 望を与えるために、先駆者たちの輝かしい物語を集め始めました。地球 に優しい技術を使えば、未来は明るい。みなさん、勇気を出して伝えた いことを口に出しましょう。世界は聞いています。みなさんの話には価 値があります。人々を力づけ、一緒に強い未来をつくりましょう。永遠 の発展などという愚かなレースではない、人類の物語をともにつくり上げ
ることができます。私が夢見るのは輝かしい物語に満ちた、思いやりにあ ふれる世界。その世界では、地域社会が危険にさらされることも、森が 傷つくこともありません。私が愛するチェコの森も、あなたの故郷の森も。