アリッツァ・ノカム – 平和と教育の活動家、NGO図書館KRISの創設者であり、コフィ・アナン財団のメンバー。
インタビューは、『WE HAVE A DREAM』出版後のアリッツァの活動と進展に焦点を当てています。彼女は自身の考えや信念からキャリアの近況まで、力強く明るい口調で説明し、キャリアを通じた成長を伝えてくださいました。
まとめ
約1時間のインタビューの中で、アリッツァ氏は、KRISが直面したCOVIDパンデミックの状況下でどのように活動を続けたのか、また、KRISがさらに活動範囲を広げることなどを話してくださいました。KRISはさらにエンパワーメントに重点を置き、気候危機、メンタルヘルス、政治的代表権といった交差する問題に取り組む、コミュニティに焦点を当てた組織へと進化しています。コフィ・アナン財団の「Extremely Together」を通じて、アリッツァ氏は、暴力的過激主義に焦点を当てた活動から、気候変動と紛争との関連性など、より広範な問題に取り組む活動への転換についても説明してくださいました。フィリピンでの不平等体験や、教育へのアクセスへのコミットメントなど、自身の活動の原動力となる個人的な動機についても語っています。以下はそのインタビューの様子です。
こんにちは、今日はインタビューに出ていただきありがとうございます!あなたのアップデートの話を聞くのをとても楽しみにしていました。World Road「WE HAVE A DREAM」の出版から数年が経ちましたね。今回のインタビューでは、出版後の近況をお聞かせください。
招待してくれてありがとうございます!私も今回のお話ができて嬉しいです。
『WE HAVE A DREAM』の出版は、パンデミック(COVID19)の時期でもあって、いろいろ障壁はありましたがとても興味深いものでした。というのも、私たちの団体KRISは、当時フィリピンで1000人以上の平和構築者を育成するプログラムを実施するために、EUから多額の資金援助を受けることができたんです。私たちは、地域社会の平和と発展のために活動する青少年団体を支援することができました。
何か具体的な事例があればぜひ教えてください。
はい、例えば、フィリピンでは2020年から2022年にかけて、1000人以上の若いリーダーたちを育成することができます。そこで、私たちは、彼らがより多くの平和構築スキルを身につけ、そのスキルを地域社会で実践するためのプロジェクトを考える手助けをしたんです。パンデミックのため、オンライン・セッションを実施したものもあります。いくつかのセッションについては、現地に赴き、若者たちが直接話をする必要がある地域に赴くことを選びました。また、戦争や紛争の影響を受けた地域にも行きました。幸運だったのは、パンデミックの最中でもこうした活動を安全に実施できるよう、地元政府や関係者の支援を得られたことですね。
COVID-19の期間中、誰もが多くの恐怖と不安を体験したと思います。その中で私たちは、若者が将来について考え、自分たちのコミュニティで何を改善したいかを考えることをしました。私たちが支援した1000人の若者の平和構築者とは別に、20の若者の団体の資金援助をしました。私たちの考えは、若者のアイデアを、それがどんなに創造的なものであっても、地域社会の平和と発展を支援するために力を与えたいというものでした。
どのコミュニティでも、若者たちが平和の促進を望んでいることは本当に興味深かったですね。
ありがとうございます。他に新しく始めたことはありますか?
はい、先ほど言った活動の間、皆ソーシャルメディアでかなり活発に活動していました。そこで、平和のポジティブなメッセージを広めるためのオンライン・コンテンツも作成することにしたんです。『WE HAVE A DREAM』を通じて達成したことと似ていますね。2022年にこのプロジェクトを完了した後、私たちはフィリピンに1,000人以上の若い平和構築者のネットワークを持つことができ、彼らが支援を続けていることをとても嬉しく思っています。ですから、今後も平和構築者たちを支援し、メンタリングしていくつもりです。
また、最近助成金を得て、今度はフィリピンの他の地域や、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイといった他の国にもプロジェクトを拡大しました。
私たちがこの道を歩み始め、We Have a Dreamの市川太一のような人々とつながったとき、私には常に、自分たちの国だけでなく世界の他の地域でも活動しようというグローバルな志があったんです。そのような夢があったからこそ、私たちはフィリピンで達成できたプロジェクトを他の地域や東南アジアに持ち込むための支援を見つけることができたと思っています。
KRISについて:平和の観点
パンデミックと本の出版以来、あなたのプロジェクトとやっていることは世界中に広まったことが伝わってきました。KRISの最近の進捗状況と、そこでのイベントをどのように進行しているのか、もう少し掘り下げてお聞きしてもいいでしょうか?
はい、まず、KRISは、図書館と平和に関する教育プログラムから始まった若者主導の組織です。設立して時間がたつとともにKRISは物理的なスペースから、よりコミュニティ・スペースへと発展していったと思います。私たちは今、第一に、平和のためのアイデアを自分たちで独裁するのは好ましくないと考えています。だから、始めた当初は、「よし、こういうプロジェクトがあるから、若い人たちはそれに参加してくれ 」とはっきり伝えていたんですね。でも今は、若い人たちのアイデアを聞き、それがどんなにユニークなものであっても、そのアイデアを発展させる手助けをしたいと思っています。平和を求めるコミュニティはそれぞれ異なるからです。平和構築のために教育に力を入れる地域もあれば、音楽や芸術に力を入れたり、スポーツに力を入れたりする地域もある。それがKRISで起こった1つ目の変化です。
KRISについて:グローバルスケールに
2つ目の変化は、よりグローバルな規模で活動するようになったことです。今、私たちがフィリピンで行ってきたことは、他の国でも必要とされていることを実感しています。同時に、すでに実施されているプロジェクトの教訓や、資金調達の方法、政府からの支援の受け方など、私たちが学べる教訓も他国にはたくさんあると感じています。そして、若者たちが多くの重複する危機を経験していることを理解しました。それによって、KRISの活動はより交差的なものとなっています。私たちは今、平和と教育について、従来の平和の意味、つまり暴力のない世界やより安全に暮らせる世界についてだけ話しているのではありません。世界中で気候変動危機が起きているときに平和があるのかという意味での平和についても話しています。「世界のさまざまな地域で、若者が驚くほど多くの精神衛生上の問題に直面しているときに、平和はあるのだろうか?」「若者が政治や統治において発言力を持たないのに、平和があるのだろうか?」このような他の問題にも目を向け、話し合ったり、若者たちがこのような問題に取り組んだりする場を組織内に設ける必要があることを、私たちの活動を通じて理解し始めています。
KRISについて:若者のメンタルヘルス・そのための活動
また、以前は、私たちは非常に社会的なレベルで平和について話していました。つまり、宗教間の平和、文化間の平和、国家間の平和、人々のグループ間の平和という観点から平和について語っていたのです。しかし今、私たちは個人的な平和についても語らなければなりません。なぜなら、多くの若者が内なる平和を感じていないからです。彼らは精神的な苦痛や孤立感、疎外感と闘っています。ある調査によると、フィリピンの若者、特にZ世代は東南アジアで最も孤独だそうです。私たちフィリピン人は一般的に、幸せで、もてなしが好きで、歓迎してくれる人たちだと思われているので、それを知ったときはとても驚きました…ですから、私たちは今、平和について議論するときに、これらのことについて話しています。内なる平和がなければ、平和を推進することはできないということです。ですから、若い人たちを教育し、対話させることは、私たちの仕事の大きな部分を占めるようになっています。
確かに、私もZ世代として、若者がメンタル・ステートによく苦しんでいると実感します…KRISでのワークショップはどのように進めているのですか?こういった問題を解決策は若者はどのようにして見出すことができると思うか、考えをお聞かせください。
これは、私たちがまだ答えを見つけようとしている問いでもあります。例えば、より大規模なものでは、今、私たちは東南アジアでのプロジェクトのために、平和構築と社会的結束に関する新しいカリキュラムを開発しています。まずフィリピンで調査を行い、ここ数年、若者たちがどのような経験をしてきたかを調べています。「彼らが最も懸念している問題は何か?平和構築に対する考え方は?」この調査にはこの分野の学問的背景を持つ主任研究員がいるのに加え、さまざまな地域に若者の研究者を雇い、仲間の若者にインタビューを行い、彼らの視点からアイデアを得ているんです。このような体制で、フィリピンの現場にいる若者たちから、できる限り生で親密な情報を得られると考えています。
もっとマイナーな活動、たとえば他の若者とワークショップを開く場合、私たちは若者たちと共同でワークショップを作ります。私たちのプログラムを渡して批評してもらい、彼らが何を変えたいかに耳を傾けるようにしています。すべての若者が、他の国や世界の他の地域とは異なる経験をしているのですから。このようなプログラムを主催する際、私は個人的なことを共有し、ここは誰もが自己開示してもいい、安心安全の場所であることを伝えます。実際、講演者がやってきて非常に個人的なことを話し、そのように始めるということに、最初は少しショックを受ける人もいます。しかし、これは正しいトーンを作ると思っています。 「私は今弱気になっている。だから、この安全な空間では、皆さんも同じように弱気になることを期待しています」という感じで。
「Extremely Together」について:気候変動に対する意見
あなたはKRISの設立者であるともに、コフィ・アナン財団「Extremely Together」のメンバーでもありますね。そちらのキャリアの進捗などはいかがですか?
Extremely Togetherは暴力的過激主義を防ぐことに協力するために、コフィ・アナン財団によって選ばれた10人の若いリーダーとしてこの活動を始めました。
私たちが活動を開始したのは2016年で、フィリピンを含む世界各地でISIS(イスラム国)の活動が活発化していた頃でしたね。
Extremely Togetherが結成された翌年、ここフィリピン南部で大きな戦争があり、ISISと同盟を結んでいたグループによる活発な戦争のために、何カ月もの間、何千人もの人々が影響を受け、何千もの家族が家を失ったことを覚えています。
2016年から始まり、今、Extremely Togetherが直面している課題と、グローバル・スケールから見たときにExtremely Togetherをどのような役割・ポジション見ていますか?
近年の暴力の様相は変化しています。
暴力的な過激主義は減りましたが、異なる理由による他の形態の暴力もあります。特に気候についてはそうです。極端な気候変動や天候の変化は土地に影響を与え、水や食料に影響を与えます。こうしたことが原因で、世界のさまざまな地域で紛争が起こる可能性が高くなっています。特にフィリピン南部のような脆弱な地域では、食糧不足のために暴力的な行動が起こりやすくなります。Extremely Togetherはそういった場面で出てくる団体です。
私たちは、暴力にまつわるこうした問題の高まりについて話し合うために、この団体を世界中から若者を集めるグローバル・シンクタンクであり、アクション・タンクであると考えています。平和構築の面では、今問題になっているのは暴力的過激主義であることを若い人たちに理解してもらう。しかし、将来的には土地や水、食料をめぐって争いが起こる可能性の方が高いのです。戦争が起こらなくても、このような環境関連の災害が起こるたびに暴力が勃発する可能性は非常に高いんです。
※リンク
https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/27538796241226780?icid=int.sj-full-text.similar-articles.3
アリッツァ氏について:自身のモチベーションとは?
KRISと「Extremely Together」の活動を聞けてよかったです!今回の質問はアリッツアさん自身にもう少し矢印を向けたものです。『WE HAVE A DREAM』の世界リーダーとして、あなたがどのようにモチベーションを維持し、前進を続けているのかを教えてください。
「自分がとても恵まれていると感じ、何かしなければならないと思う状況だった。
そうしなければ、私は罪悪感を感じてしまう。」
私が一緒に育った人たちのような人たちを助けるようなことをしなければいけないと考えたんです。だから、彼らと自分を比較することは、私が続ける決心をした重要な根拠でした。
私は最初の数年間はフィリピン南部のミンダナオ島で育ったたのですが、その後、家族とともにマニラに引っ越しました。従兄弟、親戚、叔母、叔父はみんなミンダナオに残ったんです。自分と彼らがおかれている状況を比較しながら育ったことを覚えています。私は家族や両親とマニラにいて、あらゆる機会に恵まれており、質の高い教育を受けていました。
平和なコミュニティーに住んでいたので、治安や秩序など、何も心配する必要はなかったですね。しかし、ミンダナオ島のザンボアンガ市やスールーに住む、私と同じ年頃の従兄弟たちの経験を聞くと、貧困がいまだに彼らの現実であることを思い知らされました。親は子どもたち全員を学校に通わせる余裕がありませんでした。まだ未成年なのに、すでに働き始めている子もいました。ファーストフード店に行ったり、おもちゃを買ったりといった基本的なことでさえ、いつも手に入るものではなかったんです。
私が強く覚えている出来事があります。ジョリビーというファーストフード店に子供のころ従兄弟と一緒に行った出来事です。私はお腹が空いていたから急いで食べていて、でも従兄弟の彼はとてもゆっくり食べていたんです。彼は、このファーストフード店に行って食事を楽しむのはとても珍しいことだと言っていました。そこで私と彼の生活の質にギャップがあることを強く思い知らされました。
私はとても恵まれていると思います。私の家族の体験談を聞くと、銃声で目が覚めたり、ある朝、隣人が犯罪者や過激派グループに誘拐されたことを知ったり、暴力的なグループがやってくると言われる海岸の近くに住んでいたりするんです。私はとても恵まれた環境にいて、何かしなければ、罪悪感を感じてしまうんです。
アリッツア氏について:尊敬する人物・自分自身のとらえ方
今、尊敬している人物はいますか?
最近は物語の登場人物ですね。もちろん、コフィ・アナンやガンジー、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアのような人々は強く尊敬しています。ですが、彼らの話や例はあまりにも昔のものなので、遠く感じてしまうんです。ですので、最近は、フィクションからインスピレーションを得ることが多くなりました。特に最近は、『ロード・オブ・ザ・リング』を読み返したり、観たりしています。この物語は、非常に長い間、悪が起きている世界を描いていますね。でも、たとえその悪が長い間続いていたとしても、与えられたものを使ってできることをするという希望がある。私はこのことを、気候危機やメンタルヘルスの問題といった現在の現実と重ね合わせることができるんです。パンデミックの後、経済が苦しむのを見て、インフレや失業で苦しむ人々を見て…今、多くのことが起きているから、あきらめるのは簡単です。私はたまに「どうしてこんなことをやっているんだろう?気候危機のせいで、30年後、50年後も世界が存在しているかどうかもわからない。それなのに、なぜこんな努力をするのか?」と考えてしまうこともあります。 でも、『ロード・オブ・ザ・リング』の教訓を生かすことで、どうなるかわからないけれど、今できることをやってみる。そして、一人や数人の人生に触れるだけでも、自分の存在が重要だと言えるのかもしれない。と考えることができるんです。
ありがとうございます。最後の質問です。平和や教育のためにいろいろなことをされているようなので、お聞きしたいのですが……ご自身のことをどのような役割だと捉えていらっしゃいますか?
「自分自身を表現するのに最適な言葉は、提唱者だと思います。」
KRISの経営やExtremely Togetherのような仕事以外に、フィリピンで自分のビジネスを経営しているのでいろいろな役割を私はになっています。私が経営しているのはマーケティング・エージェンシーです。NGOセクターで働く人たちは、あまり収入が多くない。それは悲しい現実です。そして、私はそれが変わることを願っています。でも同時に、私はこの旅を長く続けたい。だから、そのためには別の経済的収入源が必要なんです。私自身を表現するのに最適な言葉は、提唱者です。というのも、私がしていることは、より良くなる可能性のあることであり、行動や現場で行っていることに関わることが多いからです。しかし、私が提唱者という言葉を使うのは、人々の価値観や行動、考え方に影響を与える影響力、そしてその影響力について語るからです。そして、これは生涯の旅でもあると私は考えています。だからこれは、私がもうKRISで働いていなくても、別の団体を立ち上げることになったとしても、あるいはもっと文章を書いて別の方法で人々に影響を与えようと決めたとしても、当てはまるかもしれない。ですから、教育を通じてより平和な世界を提唱し、こうした価値観や考え方を変えることが平和を築くことにつながるのです。
アリッツァさん、今回は本当にありがとうございました。
こちらこそありがとう!