物語の力で思いやりの世界を


幼い頃、意味をよく知らないまま「いつか奴隷制をなくす」と冗談で いとこに言ったことがあります。アメリカの奴隷制廃止を描いたアニメ に出てきた言葉で、当時はおもしろそうな響きに聞こえたのです。大人 になって、実際に自分が「現代の奴隷制」の廃止を支持するようになると は、思ってもみませんでした。

私のアドボカシーの旅が始まったのは、19 歳のときでした。YSEALI ※ 8 が開催した「アイデアを行動に」をテーマとするワークショップに参加し たのです。そこで現代奴隷制に関する地域プロジェクトのアイデアを話し たのをきっかけに、Youth Against Slavery Brunei を友人と共同設立することになりました。当初は、アドボカシー活動はほとんど不可能に思えま した。強制労働、借金による束縛、差別、契約の変更、身分証明書の取り 上げなど、現代奴隷制に当てはまる多くのことが、私の国では普通だと思 われていると気付いたからです。特に、地元の人たちが移民に対して、ま たときには地元の人同士でさえ、そうなのです。このような課題や人々の認識不足を知って、ますます一生懸命取り組もうとやる気になりました。 ついには、警察、労働局、移民局と何とか協力することができ、ここ数 年で人々の意識レベルが高まってきました。

さらに、もっと多くの人に関心を持ってもらう方法を見つけました。物 語の力を使うのです。ストーリーを語り、聞くことは、人として欠かせないことで、お互いの理解を深めてくれます。私たちは『ヒューマンズ・ オブ・ニューヨーク』のストーリーテリング手法に触発され、国内の移 民労働者たちの物語を写真で記録し、Stories of Migrant という展示イベ ントを行いました。このおかげで新しい友達をつくれるだけでなく、移 民労働者の苦しい立場を心から理解し、共感する機会も得られています。 やはり私たちはみんな、語るべきストーリーを持っているのです。

このアドボカシーの旅には、まだまだやるべきことがたくさんあると 思っています。たくさんの物語を聞いてきましたが、悲しい話もあれば、うれしい話、元気が出る話もありました。私が望み、夢見ているのは、この旅のどこか途中で、私たちがお互いをもっと尊重し、もっと思いやりの 心を持てるようになることです。いつの日か私たち人間がお互いを搾取 しなくなるようにと願い、夢見ています。ネルソン・マンデラの言葉「自 由であるとは、己の鎖を外すだけでなく、他者の自由を尊重し高めるような生き方をすること」に共鳴するために。

———–
書籍 WE HAVE A DREAM 201カ国202人の夢×SDGsはこちら

上部へスクロール