社員を主役に変える「制度・行動・物語」のサステナビリティ戦略 ダノンジャパンの実践

サステナビリティ推進における「2つの大きな壁」に着目 オープン勉強会レポート

サステナビリティ推進に取り組む企業の多くが、いま「社内浸透」と「発信」という2つの壁に直面しています。 一つ目は、取り組みが一部の熱心な担当者にとどまり、現場の社員にまで広がらない「社内浸透の壁」。そして二つ目は、実態が伴っていないと批判される「グリーンウォッシュ」を恐れるあまり、誠実な取り組みすら発信を控えてしまう「発信の壁(グリーンハッシング)」です。

これらの壁を乗り越え、サステナビリティを真に組織の力に変えていくにはどうすればよいのでしょうか。

2026年7月1日、社会・環境への取り組みやガバナンスなどを総合的に評価する国際認証「B Corp」の認証企業である株式会社ブランドクラウドが主催する「オープン勉強会」が開催されました。

ゲストとして登壇したのは、同じくB Corp認証を取得し、サステナビリティ領域でも先進的な取り組みを進めるダノンジャパン株式会社の佐々木恭子氏。コーポレートアフェアーズ本部でサステナビリティを担当し、法政大学大学院の兼任講師も務めています。


プロフィール 

佐々木 恭子 氏
ダノンジャパン株式会社
コーポレートアフェアーズ本部
シニアパブリックアフェアーズ&サステナビリティマネージャー 
法政大学大学院 兼任講師


当日は、和やかな雰囲気の中、同じくB Corp認証企業である「オブゴベイカー」のクッキーや、ダノンジャパンの「oikos(オイコス)」プロテインドリンクを片手にスタート。ブランドクラウド会長・井原正隆氏の著書『9割の人が知らない 風評被害・誹謗中傷対策の方法』も参考図書として紹介しつつ、温かみのある対話形式でセッションは進められました。

佐々木氏は、「サステナビリティの推進に絶対的な正解はありません。今回のダノンの事例を一つのヒントとして受け止め、それぞれの企業や立場に合わせた最適なアプローチを見出していただければ」と語ります。

本レポートでは、同氏が語ったダノン流の「制度・行動・物語」を活用した社内浸透アプローチに加え、グリーンハッシングを乗り越えるための発信戦略について、分かりやすくレポートします。

ダノンの揺るぎない北極星――50年前から続く「デュアル・プロジェクト」のDNA

まずは、佐々木氏からダノンのサステナビリティへの歩みが語られました。ダノンにおけるサステナビリティ推進の根底には、半世紀以上にわたって受け継がれてきた揺るぎない「北極星」が存在します。

その原点は、今から50年以上前の1972年、ダノンの初代CEOであるアントワーヌ・リブー氏が提唱した「デュアル・プロジェクト(社会の発展と経済的成功の両立)」の理念にあります。リブー氏は「社会の発展なくして、企業の成功はない」とスピーチし、企業は収益性を追求すると同時に社会にポジティブな変化をもたらす存在であるべきと主張しました。この考え方は、ダノンのDNAとして今も脈々と息づいています。

また、同社が掲げる「One Planet. One Health(人間の健康と地球の健康は食を通じてつながっている)」というビジョンは、私たちが健康であるためには、私たちが口にする食を生み出す地球そのものが健康でなければならないという、双方向のつながりを重視する思想です。

ダノンでは、これらの理念を経営や組織の具体的なシステムとして取り入れてきました。その象徴的な事例が、上場企業として初めて、フランスの会社法における「Entreprise a Mission(使命を果たす会社)」となったことです。定款に社会的・環境的目標を記載し、その達成度を第三者委員会が監査する仕組みを導入することで、理念の実践を法的・制度的に担保しています。また、世界各国の関連法人でB Corp認証の取得を進めるなど、外部基準も活用しながら、サステナビリティを経営の仕組みに組み込んできました。

社内浸透を成功させる「制度・行動・物語」の3アプローチ

では、こうした理念をどのようにして現場の社員一人ひとりにまで浸透させているのでしょうか。佐々木氏は、社内浸透を設計するためのフレームワークとして「制度」「行動」「物語」の3つの要素を用いたアプローチを紹介しました。

制度(内部制度 × 外部制度)

社内浸透の土台となるのが、活動をルール化・仕組み化する「制度」です。

ダノンでは、2001年という早い段階から、社内制度として「ダノンウェイ」と呼ばれるプログラムを導入しています。これは、全ての子会社において環境面や社会面におけるパフォーマンスを可視化し、自社の取り組み状況を把握するための、約200項目にも及ぶ自己評価(セルフアセスメント)を行う取り組みです。さらに2023年には、最新のサステナビリティ指標を包括的に織り込んだフレームワーク「ダノン インパクト ジャーニー」を導入し、ロードマップに沿った活動を推進しています。

一方、社外制度としては、国際的な企業認証である「B Corp」の取得を進めています。ダノンは2015年に「すべての関連法人でのB Corp認証取得」を宣言し、10年をかけて2025年に世界60カ国200以上の関連法人で取得を完了しました。こうした社内外の多層的な制度が連携し、サステナビリティの実践が会社の当たり前のルールとして機能しています。

行動(公式的な活動 × 自主的な活動)

制度によって作られた枠組みを実際に動かしていくのが、社員の「行動の変容」です。

佐々木氏は、会社側から降りてくるKPIや制度といった「公式な活動」と、社員の中から湧き上がる「自主的・創発的な行動」の両輪が重要であると指摘します。公式な活動や会社の制度は、社員が動くための「後ろ盾(正当性)」となり、それがあるからこそ社員は安心して自主的な活動に挑戦できます。

実際にダノンジャパンでは、パーパスである「健康をお届けする」という方針に基づき、「成分献血のボランティアに参加したいが、時間がかかるため業務時間内扱いにできないか」といった提案が社員から自発的に上がってきたといいます。また、ビジネスに直結するような提案も生まれています。

興味深いデータとして、ダノンジャパンの従業員アンケートの結果が紹介されました。入社前からB Corpやサステナビリティに関心があった人は必ずしも多くなかった一方で、入社後に関心を持った人は74%に上ったといいます。さらに「業務を通じて社会貢献したい」と答えた人は約80%、「ボランティア活動に参加したい」という人も50%以上に達しました。

この結果は、入社時の「インダクション(導入研修)」や日々の丁寧な対話を通じて、入社後に社員の意識と行動を十分に変容させられることを示しています。

物語(語り × 共有)

そして、制度と行動をつなぎ、組織の文化として定着させるのが「物語」の力です。

ダノンでは、毎年3月の「B Corp Month」といった機会を活用し、社内で積極的なコミュニケーションを図っています。具体的には、B Corp取得企業の製品を用いたクイズや、気軽な対話ができるイベントの開催などを通じて、B Corpの意味や自社の存在意義を社員が楽しみながら再認識できる「物語」を提供しています。

自主的な活動や小さな成果を表彰やストーリー共有の形で社内に広めていくことで、「自分たちの仕事が社会にどうつながっているのか」を実感してもらい、次の「自主的な行動」を生み出す好循環を作り出しています。


グリーンハッシングを乗り越える「客観的認証」と「他社との協働発信」

社内での取り組みが進む一方で、それをどう社外に伝えていくかという「発信の壁」も存在します。近年は、グリーンウォッシュ批判を恐れ、あえて発信を控える「グリーンハッシング」も課題となっています。ダノンではどのようにこれを乗り越えているのでしょうか。

ダノンジャパン佐々木氏と、ブランドクラウドの中岡氏による対談では、外部発信の戦略について議論が交わされました。

まず、佐々木氏は、グリーンウォッシュの懸念を払拭し、情報発信を行ううえでの鍵として「客観的な第三者認証の活用」を挙げます。B Corpのような国際基準を満たした認証を得ることは、社会や消費者に対する客観的な担保となります。

また、もう一つの有効なアプローチとして「他社との協働発信」が示されました。サステナビリティの発信を自社単独で行うと、どうしても宣伝色や自己アピールが強くなりがちです。しかし、複数のB Corp認証企業と共に、共通のプラットフォームやイベントを通じて発信を行うことで、社会的メッセージとしての説得力が高まり、単独発信よりもはるかに広く情報が伝わることがあります。お互いのパーパスを尊重し合う企業同士のコラボレーションもまた、発信の壁を乗り越える力となります。

「正論」では人は動かない。相手の関心事に「翻訳」して伝える技術(質疑応答より)

イベント後半の質疑応答では、「BtoBの取引先や、サステナビリティに関心の薄い他部署・上層部をどのように巻き込むべきか」という、多くの推進担当者が抱えるリアルな悩みが寄せられました。これに対し、佐々木氏はご自身の経験に基づいた実践的なアドバイスを語りました。

まず同氏が強調したのは、『環境に良いから』『社会のために正しいから』といった正論をそのまま押し付けるのは逆効果になり得るということです。正論を前面に出したコミュニケーションは現場を疲れさせ、心理的な距離を作ってしまいます。

営利企業として事業を行っている以上、それぞれの部署や取引先には、売上、コスト、採用、エンゲージメントといった現実的なビジネス課題があります。そこで重要になるのが、サステナビリティの価値を「相手の関心事や言葉に翻訳して伝える」技術です。

例えば、地域貢献活動に対して社内から「営業や工場が一生懸命稼いだ利益を、なぜ地域へばらまくのか」という意見が出た際、「地域での評判が向上することは、人事における採用活動の成果に跳ね返ってくる」と説明します。また、取引先に対しては「ESG対応を強化することで、競合との差別化になり、中長期的な営業効果や信頼構築につながる」といったメリットを提示します。

「言っていることの本質や、裏で進めるアクションは同じであっても、相手のビジネスストーリーやメリットに歩み寄り、相手が納得しやすい言葉に翻訳する。そうして『実(具体的な成果)』を取りに行くことこそが、結果的にプロジェクトを前に進める近道になります」と佐々木氏は語りました。

無理に相手の思想を変えようとするのではなく、お互いの共通の利益を見出す対話の姿勢が、リアルなビジネスの現場においては重要なのかもしれません。

セミナー終了後に行われた交流会では、参加者同士で時間が足りなくなるほど熱い議論や意見が交わされ、それぞれの現場で新たな一歩を踏み出すための強い熱気に包まれたイベントとなりました。

結び|100%の理解よりも、自主的に一歩を踏み出せる組織文化を

今回のイベントを通じて明らかになったのは、サステナビリティの社内浸透は、必ずしも「社員全員に100%の理解や賛同」を目的とするものではないということでした。

企業として目指すべき「北極星(パーパス)」と、それを支える「制度」というしっかりとした後ろ盾を会社が用意した上で、社員がそれぞれの現場で「自主的に一歩を踏み出せる組織文化(エンゲージメント)」を育てていくこと、それこそが社内浸透であり、変革そのものです。

まずは自社の身近な対話の中で、相手の言葉に合わせた小さな「翻訳」から始めてみてはいかがでしょうか。その一歩が、やがて組織全体を動かし、社会を変える大きな物語へとつながっていくはずです。

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