子どもの頃、おとぎ話や冒険物語、ミステリーを読むのが大好きでした。 いまだに5歳の頃、両親の寝室で座って、私にとって目新しく不思議な記 号を結びつけて、初めて出会う言葉や文を読もうとしていたことを覚えて います。それ以来、読書は探険と発見という新しい世界への扉を開いてく れました。
同じように、とても大切な1行を書いたのを覚えています。それはずっ と後になってから、20 代のことでしたが、次のようなものでした。
「print(“Hello stranger!”)」これが、私が初めて書いた Python のプログラ ミング言語でした。ディスプレイに 2、3 語の言葉が現れ、私を心から魅了 したのでした。強大な力を手に入れたような気分。というのも、コンピュー ターというこの世で一番賢い機械に、突然命令を下すことができたのですから! さらに勉強して、初めて出会う不思議な記号を学び、現代の創造 的な遊び心に満ちた世界を発見したのでした。
2 1 世紀は、誰もが魔法のコードを発見する機会を持ち、デジタル世界の デザイナーになれば良いと思います。子どもたちはテクノロジーを身につけ て自己表現でき、デジタル・アーティストになり、インタラクティブなパ フォーマンスをつくり出し、日々の問題を解決し、最終的には自分だけのデ ジタル空間をつくることができるのです。それなのにラトビアの若い世代は、 テクノロジーをつくる側ではなく、受け手の側にまわりつつありました。ゲー ムをしたり、YouTube を見たり、SNS でお互いにやりとりするためだけに テクノロジーを使っていました。若者たちが、巨大 IT 企業が構築するルー ルに規定されたデジタル世界で育ってしまうのは残念なことです。私は内心、生徒たちがクリエイティブなテクノロジー事業をつくり、デジタルな新し い手法で自己表現する方法を確実に学べるよう支援するべきだと思いまし た。私が何とかしなければ。というのも、私は生涯をかけて学んでいて、 教育熱心なのですから!
そういうわけで、2 014 年に私は Learn IT という、ラトビア初の小学生 を対象としたプログラミング・スクールの共同創立者になりました。生徒 たちはここでアニメーションやゲーム、スマートフォンアプリ、ウェブサイトなど彼らにとって有意義で、楽しいものをつくっています。子どもたち 15 人の小さなクラブから始まり、1,000人以上の生徒、100人ほどの教師を トレーニングしてきました。このスクールは子ども一人ひとりにとって楽しくて思い出に残る物語をつくり続けています。 例えば、テクノロジーのクリエイティブな使用とはこのようなものです。
3 D モデリングに興味のある子がお金を貯めて、3 Dプリンターを買い、い ろいろな小さな 3 D フィギュアを設計し、プリントし始めました。彼の母親 は心理学者で、そのフィギュアを気に入り、同僚に見せました。同僚たち もフィギュアを気に入り、その子にフィギュアを注文し始めました。心理学者たちは、クライアントが自分の気持ちに気づき、向き合えるようにセッ ションでそのフィギュアを使っているのでした。
別の例もあります。今度はプログラミングの話です。ある日、女の子が とても眠そうにして授業にやってきました。前の晩、お父さんのいびきがあ まりにもうるさかったせいで、よく眠れなかったのです。彼女はこの問題を プログラミングによって解決することにしました。単純な材料で、いびきセンサーをつくったのです(こんな発明は世界初かもしれませんね)。それは 家のなかの大きな音(いびき)を感知します。音量があるレベルに達すると、 とても大きな警報が鳴り、いびきをかいている人を起こします。彼女は今、猫と同じくらい大好きな快眠を取り戻しています。 好奇心旺盛な生徒たちと、オープン・マインドな教師たちがいれば、すべての子どもが現代のテクノロジーに基づいた教育にアクセスできる世界 をつくることができると信じています。そこでは、子どもたちが自ら問題を 解決するでしょう。不満を言う代わりに彼らは行動し、テクノロジーを駆使して自分たちのまわりの世界を改善していくのです。すべてのイノベー ションやアイデアに子どもたちが加わることができると想像してみてくださ い! 私はそのような世界をつくる一助になりたいと思います。
世界規模で見れば、ラトビアはパズルの小さな1ピースにすぎません。 進化する世界経済に対応できる適切なスキルと知識を与えられなければ、たくさんの生徒たちが取り残されるリスクがあります。子どもや若者を教 育し、デジタルな未来への心構えをさせ、リーダーに養成しなければなり ません。そのために私は、オンライン・ツールを教育者向けに開発し、世 界中の指導者たちがプログラミングを教室に取り入れ、学習者が新しいテク ノロジーの技術を習得し、創造性、協調性、コミュニケーション力、そして 批判的思考の力をつけられる手助けを行っています。ラトビアの教育省と 協力し、学校でコンピューターとプログラミングをどう教えたら良いか、 教師たちをトレーニングしてきました。私たちは大きな夢を実現し、社会 の広い範囲に影響を与えることができるでしょう。
大人、親、教育者として、読み書きの楽しさを発見する冒険に子どもた ちを送り出すことが私たちの最大の仕事です。そして、現代においては、プ ログラミングは新しい読み書きの形です。私は、子どもたちが自分たちの創造性を使って自己表現し、できる限り楽しんで生きてほしいと思います。