次世代が自信を持って未来を切り開くために

こちらの記事はパートナーメディアTAP l Take for Action for Peace から特別な許可をいただいて転載・編集しているものです


今回取材させていただいたのは、国立大学法人 岡山大学 学長の那須保友さんです。

1957年、愛媛県生まれ。
1981年3月岡山大学医学部卒業。86年同大学大学院医学研究科博士課程修了。
1996年米国ベイラー医科大学研究員として、アメリカに留学後、2013年岡山大学病院副病院長を務める。同大学副理事、理事、副学長を経て2023年4月学長に就任。


岡山大学について簡単に教えてください。

岡山大学は150年以上の歴史を持つ総合大学であり、医学・工学・物理・化学などの分野からノーベル賞候補者がおり、世界的な研究を推進している日本屈指の大学です。約8年前、国立大学としては日本で初めて、SDGs達成に向けて全学を挙げて取り組みを推進しようと決めた大学でもあります。

国立大学として初めてSDGsを掲げた岡山大学

SDGsに力を入れようと思ったきっかけや背景を教えてください。

前学長の就任時、執行部で大学の方向性を検討していたタイミングで、国連サミットでSDGsが世界共通の目標として採択され、「まさに岡山大学が目指していることはこれだ」と確信しました。8年前は国連が出版した「大学でSDGsに取り組む」の日本語訳が出回っていない頃でしたが、本学がそれを日本語に翻訳し、国内大学のSDGs推進に寄与しました。ここからSDGsに向けた取り組みがスタートしました。

学長ご自身も岡山大学のご出身だそうですね。「同郷から世界や社会を良くしていきたい」という気持ちもあったのでしょうか。

そうですね。アメリカへの留学経験もあって、歳を重ねるにつれて「岡山を起点に世界と日本はしっかり繋がっていかなければ」という想いはどんどん大きくなっていきました。

まずは自分を大切にする

岡山大学の使命として、地域と地球の「ありたい未来の共創」への貢献を掲げられています。この想いについて教えてくだ
さい。

僕たちは、2050年をマイルストーンとして、地域と地球のありたい姿をみんなで作っていくこと、かつその目標を先導する大学になりたいと思っています。その目標実現のために必要な思想として、僕はいつも3000年前の中国の古典を引用し、学生たちに言い聞かせています。それは、まずは”自分を大事にすること。その次に、家庭、友達などの周囲の人々。それから地域や国、地球・と広げていくことで環境を大事にできる、と。誰だって、いきなり
「地球を大事にしましょう」と言われても難しいでしょう。自分のことを大事にできない人は、家庭のことを大事にできないと思います。だからまずは自分のことを大切に、それから「ありたい姿」を目指して周りのことについて考えてもらいたいと思っています。

社会と関わるときに意識すること

学生の皆さんは、どのようなSDGs活動を行っているのでしょうか。

学生はみな網羅的な活動を行っていますが、特徴的な傾向として、社会のことに関わる時に「これはSDGsの何番目の目標だろう」と考える癖をつけるようにしています。
具体的な活動内容としては、地域のゴミ捨てやフードロスをなくす取り組みなど、多くの学生が日常的に取り組んでいます。また、TABLE FOR TWOと呼ばれる日本発の世界の飢餓と肥満問題を同時に解決する取り組みも積極的に活動しています。大学としても「SDGsアンバサダー制度」を設けており、大学の推進するSDGs活動に賛同し、一緒に活動を推進してくれる学生たちの取り組みを支援することも行っています。

地元企業や自分のやりたいことに向き合う

岡山大学では、DXの推進活動にも注力されていると伺いました。

さまざまな学部の学生が課外活動の中で、SDGsの観点でデータを駆使し、地域
や地元企業の課題をDXでどう解決していくべきかを考えるDS (データサイエンス)部があり、約180名の学生と教員が一体となり、データサイエンスやプログラミングを駆使して地域課題の解決に取り組んでいます。
そしてこういった活動を通して学生のうちに失敗を経験してほしい。失敗しないと学べないことはたくさんありますので、若い人に経験を積んでもらいたいと思っています。

次世代が自信を持って来を切り開くために

注力している夢育プロジェクトについて教えてください。

夢育プロジェクトは岡山県発のプロジェクトです。教育には、知育、徳育、体育、食育がありますが、5つ目の「育」として新しく「夢育」を追加しました。英語では「You Make」とも表現しており、「夢はあなたが作るもの」という意味が込められています。
教育の観点では、「勉強して成績を上げる」だけではだめ。最も大事なことは、「自分は何か成し遂げられるかもしれない」という自分に対する有能感や自信をつけること。夢育プロジェクトを開始してからは、子どもたちの自信が大幅に上がったんです。
次世代が「自分は認められている」と感じられることを目指して県を挙げて推進しており、岡山大学では自分の課題をデータサイエンスを用いて解決に導く授業に取り組んでいます。

「DREAM」に込めた想い

夢という観点では、AIさんも2022年に「DREAM」というアルバムを出されました。当時のアルバムタイトルにかけた想いを聞かせてください。

「DREAM」という言葉はすごくシンプルなので、アルバムタイトルにつけるのは普通すぎるかなとも思っていました。でも、世界でいろいろな悲しいイベントが起きる中で、「いつになったら世界は平和になるの?」「いつになったらLOVEであふれるの?」「いつになったら人は夢を持てるの?」と思ったら、今こそ必要な言葉なんじゃないかと思ったんです。みんなが自分のアルバムを目や耳にするたびに自分の夢のことを思い起こしてくれたらと願って、「DREAM」と名付けました。

夢を見つけるには

そもそも夢育プロジェクトは、どうやって始まったんですか?きっかけは?

やっぱり夢について話すのって照れくさいじゃないですか。それでも、まずは真剣に学生たちと夢を語り合うことから始まりました。
特に大学は、たくさんの高校生が見学に訪れます。そこで話すメッセージは、「夢のある人は大学で実現してください。夢を見つけたい人は、大学で見つけてください。夢がない人は、夢の見つけ方を勉強してください」。
夢はそんなに簡単に見つかりません。僕も40歳になって、アメリカ留学時に遺伝子治療をライフワークにしたいという夢を見つけました。夢が自分の目の前に通っているか、それをきちんとキャッチできるかどうか、気づけるかどうかが大切なのです。


今回取材させていただいたのは、岡山大学大学院在学中で、株式会社ABABA代表の久保駿貴さんです。

1997年、兵庫県生まれ。岡山大学理学部4年次、友人の就職活動をきっかけに「就職活動の過程が評価される」スカウト型サービスABABAを創業。累計7億円の資金調達を実施し、最年少で経団連に加盟。東京MX「堀潤LiveJunction」にてコメンテーターも務める。現在は、岡山大学大学院に通いながら、株式会社ABABAの代表としても活躍中。

自分事として世界の社会問題を捉えるきっかけに

One Young World サミットへの学生派遣が他の大学にはない、珍しい取り組みだと伺いました。One Young World について教えてください。

One Young World サミットは、次世代の若いリーダーたち(18〜32歳)が一堂に会し、世界規模の紛争問題や気候変動などの社会問題について議論や意見交換を行う場です。世界の社会課題に問題意識のある若い世代が知り合い、5年後10年後にそれぞれが活躍するフィールドでの経験をかけ合わせて解決に導いていけるきっかけとなる素晴らしい場だと感じています。岡山大学から日本代表団の一員として、毎年学生代表が参加しており、母校や後輩たちが評価されてきた結果なのだと個人的にも誇りに思っています。

岡山大学がOne Young Worldの活動に力を入れている理由を教えてください。

SDGsの活動に取り組んできたことや、国連が掲げる目標に共感してアンテナを張り、未来を守るのに重要な観点だと発信し続けてきたことが認められ、岡山大学として参加枠をいただいています。特にOne Young Worldは、若者を主人公に据えています。「あなたの40年後のことを考えてください」と位置づけて、決して他人事ではなく、自分事として今の課題を捉えるという意味で、僕たちがやっていることとの親和性があると思います。

選出者を含めて社会人以降も交流があったり、お互いの活躍に期待し合うような繋がりができるのは、学生目線でとてもいいなと思います。

就活における心の健康を守りたい

保さんが岡山大学在学中に、起業されたABABAのサービスについても教えてください。

ABABAは、最終面接まで進んだ就活生だけに企業がアプローチできるダイレクトリクルーティングサービスです。4年前に友人がとある企業の最終面接に落ちてしまい、立ち直れないほど深く傷ついてしまった出来事がありました。そこまでの過程や積み上げた努力、時間にフォーカスされてもいいのではないか?彼を救いたいと考えたことが起業に至ったきっかけです。一流企業の最終面接まで残ったということは、間違いなく優秀な人材である証です。少しでもそういった方々の受け皿となり、就活に対してポジティブになっていただき、心の健康を守ることに繋げたいという思いで運営しています。

人に寄り添いながら、一つのことに対して深く向き合うところなどOne
Young Worldと共通する部分がありますね。

Not So Differentに込めた想い

AIさんの楽曲 「Not So Different」は、One Young World Japanのテーマソングに起用されました。曲に込めた思いを聞かせてください。

世界で起きている差別や貧困問題、地球規模の環境問題とか、いろんな国でいろんなことが起きています。出会ってきた海外のアーティストたちからも、紛争や事件に巻き込まれて未だにトラウマで寝られないという話も聞きます。そうしだ”変えていかないといけないこと”って、なんでこんなに変わらないんだろうと思っていました。そして、ちょうど2020年の東京オリンピックを控えたタイミングで、「これはチャンスだ」と思ったんです。「Not So Different」は、人種や文化、言語などの差はあれど、みんなそんなに違いはないのにと歌う曲。世界各国の人が日本に集まるタイミングで、みんなに仲良くなってほしいという目的で作りました。

本質を忘れずに新しいものを取り入れていく

今後、大学として大事にしていきたいことはありますか。

「不易流行(ふえさりゅうこう)」を大事にしていきたいです。変えるべきものと変えてはいけないものを見誤ると組織は繁栄しません。守るべきこと、例えば、人のため、世の中のために何かをするという本質の部分は変えてはいけません。でも、DXなどの技術面などの変化を重ねるべき部分は早く変えていくべきで、いつまでも成功体験にしがみついてはだめだと思います。

AIさんの「不易流行」はなんですか。

変えたいこととしては、みんな健康でいられる世の中になってほしい。世界中がHAPPYになってほしいな。変えたくないのは、人が持つ優しさ。

1人ひとりが世界を動かせるように

岡山大学では、アフリカの研究者支援にも力を入れていると伺いました。具体的にどのような活動をしていますか。

国連機関である「国際連合貿易開発機構」と一緒に、アフリカなどの発展途上国の若手研究者を岡山大学にお招きして、共同で研究を進める取り組みを推進しています。国を背負って学びに来た方々が、母国に帰って知識を受け渡し、また優秀な方が日本にいらっしゃるという循環が生まれており、国連でも高く評価されています。また、資源の少ない日本だからこそ、大学の学生たちには知恵や芸術で世界を動かせるようになってもらいたいです。自分自身の留学した実体験としても、AIさんの言う通り人種や言語は違うけれども中身はみんな一緒だと思うことが多々あります。早くそうした経験を学生1人ひとりにしてもらいたいというのが、学長としての願いです。

AIさんは今後やっていきたいことはありますか。

やっぱり自分たちが海外で得た経験って、みんなができるわけじゃないんですよね。自分が「Not So Different」と言えるのも、その経験をさせてもらったからです。もちろん差別されることもありますが、そこに居続けたからこそ分かり合えたこともあるので、辛いと思ってもその時を超えるとまた違う景色が見えてくるはずです。人種や言語が違っても、ずっと一緒に過ごしてみると、本当にそんなに違わないし、同じようなことで苦しんだり、泣いたり、笑ったりしているのが感じられます。
そうした経験をしてもらえるようなきっかけを作ることで、想いを次世代に繋げられたらいいなと思います。

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